葦船が他の船と全く違うところがあります。
葦船だけが明らかにコンセプトが違うのです。
船にも色々な種類があるとおもいます。
ヨット、モーターボート、タンカー、貨物船、他にもカヤック、カヌー、イカダに丸木舟など色々な船がありますがそのどれとも違うカテゴリーに葦船はなります。
それは、葦船の乗組員は人間だけではないということ。
つまり、人間が移動するためだけのものではないのです。
実は葦船は発酵しているんです。
草を束ねた船なので刈り取った葦にはたくさんの微生物がびっしりつまっっています。そして乾いた部分というのは37度ぐらいで暖かく発酵しているのです。
つまり、人間と同じように体温を持った船なんです。
葦船を作る段階でたくさんの束を積み上げて作ります。
その時に、虫たちがその束に入っていくんですね。
外敵からも守られるし、暖かいし、餌もある。
草についた微生物を食べる小さな虫たち、それをたべるアリなどの虫がたくさん入り込み巣を作り卵を生みます。そしてその小さな昆虫を食べるようにクモやムカデなどの大型の昆虫たちがコロニーを作っていきます。その虫たちの巣ごとそのまま束を作り船になっていきます。
海の上は湿気が100%近くあるので何でもカビていきます。小屋のしたなんかカビでびっしりと広がり、大小様々なキノコが生えてきます。
それだけではありません。
船の底にもたくさんの生き物が船の底で育っていきます。
貝類や海藻、イソギンチャクがすごい勢いで成長していきます。
そして、身を守るように小さい魚たちが船の下で暮らし始めます。
水に浸かった船底は腐り魚がつついて食べ始めます。
つまり、葦船そのものが魚の餌になるのです。
葦船の船の下はまるで竜宮城か魚市場のようになるのです。
そして僕らは魚を釣って刺身で食べ、潜って採る海藻や貝はスープにへとまさに海の自給自足です。
結局、葦船は微生物、昆虫、キノコ、カビ、植物、海藻、貝類、イソギンチャク、魚たちと人間以外の乗組員がたくさんいて共に旅をしているんです。そう、まるでノアの箱舟のように。
葦船は1年後には土になる素材です。だから若い土とも考えられます。
つまり、葦船は作った場所の多様な生命の環境そのものを若い土にカプセルのように閉じ込めて離れた島や大陸に届ける命の種のような役割があったのではないかと考えられないでしょうか。
たどり着いた島では湾内の奥の河口に葦船が停泊しそのまま朽ちていきます。
そして、腐っていく葦船を苗床にして多様な植物や菌類が昆虫、菌類、小魚、海藻、貝類などが、そこに新しい環境を作り出してゆくのです。
つまり、葦船以外の船は人間が移動や運搬の手段として使う乗り物だとすると、葦船の乗組員は人間だけではなく多様な生態系であり地球環境を整えるための命の種をとしての役割があるのではないかと思うのです。
太古の知恵である葦船は人間本意のものではなくでは決してなく、地球環境を整えるために使われていたのだと僕らに語りかけてくるのです。
学術的にはまだまだ解明されてはいないですが、僕が葦船の航海を通して感じていることをそのまま言葉にしてみました。
みなさんと一緒に、この多様な世界観をまだまだ探究してみたいと思っています。
絵・石川仁