二十数年前サハラを歩き続けたとき、いつも一人ぼっちだった。
でも今は違う。
仲間と一緒に砂漠にいる。
ともに夕日に心を震わせ、質素でもバカうまな食事を喜び、人に言えなかった人生観を静かに話し、コボレる星々に未来を語り、曲線美の砂丘を転げ回って腹の底から笑い合える仲間がいる。
僕ら5人は「バイブレーション・ファイブ」とグループ名を付け、いろいろな風景を背にデタラメにポーズを決めてカメラの前ではしゃいでいた。
100kmの砂漠を歩くことは昔と違ってなんだか思ったより大変だ。
でも、程よい疲労感が食事のうまさの質をぐんとあげた。休憩のときひと房のオレンジを口に入れゆっくり噛み締めるとほとばしる果汁に幸せが爆発する。一杯の水に大げさではなく「いのち」を感じる。
静寂以上の無音の中、ゆっくりと時間をかけて沈む太陽を誰も口も聞かずに並んで眺め、こころに刻む。
夢の中を歩くということはこういうことなのか!
幻想の世界はこうなっているのか!
確認するまでもなくみんなが感じていたことは、日常を遥か遠くに超えて別の時間を旅していることだった。
ひとりでいる時間は、自分のこころにゆっくりと降りていく。
煩わしさがない分深いところまで触れることが出来る。
そして、こころの中心が世界とつながっていることを知る。